お供え物の本当の意味

夏場、母の介護をしていたとき私を呼ぶ声がしました。いつもよりかなりきつめの呼び声でした。

行ってみると、左手で仏壇の方を示しています。部屋には亡くなった母のお父さん(私の祖父)を含むご先祖様の仏壇がおかれています。そこを母が指さして何か言おうとしています。「何、ちゃんとほこりとっておいたよ。水拭きもしてあるし。お花もかざってあるでしょう?」と私が言うと、そうじゃないというように顔をしかめて、まだ私の後ろの仏壇を指さしています。何だろうと思い、もう一度確認すると、お水と仏飯がおかれていなかったのに気づきました。

私はそうだったと思い、「ごめんごめん」と言って、母に目配せをしました。母は心労を抱いたように目を閉じてがっくりとした表情を浮かべました。その後、台所へ行ってお水をくみ、仏飯を仏壇にお供えしました。

 

母は、実際のお父さん、つまり私の祖父と会ったことがありません。母が生まれて数年のうちに祖父は戦死したからです。戦地では戦死者の半数を超える一万人以上の人々が餓死したといいます。祖父もその中の一人でした。

母が仏壇のお供え物にこだわったのはそのせいだと思います。祖父がいなかったら私も母も生まれていません。亡くなった祖父と会話をすることができる窓口が、唯一あの仏壇であったということに私はそのとき初めて気が付いたのでした。

 

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