テレビ取材

「今日、最初に行ったおんぼろ店には、心底がっかりさせられた。」

ようやく見つけたディレクターのブログ。二日前にアップされた記事はこんな見出しで始まっていました。

 

午前中だったでしょうか、ハーグストゥーヘンにテレビ局の取材班がたずねてきました。二日前のことです。私は厨房にいたのですが、お客さんも少なく注文もほとんどなかったため厨房のドアから外にでて取材班一向をのぞき見にいきました。

見ればかなりの大所帯で、一つの番組をつくるのにこれだけの人員が必要なのかと思わず感心してしまいました。私の知っている女性アナウンサーの方がいたので、たぶんあの番組だろうなと察しがつきました。

その番組は、おんぼろの外観をした店を訪ねて料理レポートをするというユニークな設定で、視聴率もよく私もたまに見たりしていました。

そこで対応した店長だったのですが、訪ねてきたディレクターと問答を繰り広げることになってしまいました。

 

当店は一部では有名店であります。ときに、世間的に有名な方も訪れることがあります。しかしそれらはお忍びでの来店がほとんどのため、店が隠れた人気店であるということはあまり知られていません。また、店の理念に共感できない興味本位のお客様には来店をご遠慮いただいています。テレビで取り上げられるとなれば、そういった興味本位のお客様が増えることになり、店の雰囲気が変わってしまうことも危惧されるため、その場合、お断り申し上げるというのが当店のスタンスであることを店長は伝えました。

何より、アポなしというのはいかがなものかと個人的には思いました。しかしそれもそのはずで、当店には表札もなければ電話番号も公表していません。ある意味、アポなしで来るしか手はないのですが……。聞けば、若いスタッフさんが最初に交渉に来ていたらしいのですが、その時はお断りしたのだそうです。それでもその若いスタッフさんはねばり、後日(ロケ当日)、ディレクターが強引に行けば店も取り合わざるを得なくなるだろうとの判断で、大所帯でハーグストゥーヘンに訪れたようなのです。

 

ソバージュヘアで黒縁メガネ、髭を生やしたディレクターさんはなだめるように言います。「店長さん、視聴率高いんですよ、うちの番組。だから、ね、ご理解いただけませんでしょうか」

店長は、お引き取り下さいと言います。ディレクターから視線を外そうとしません。それでも引き下がらずに必死につなぎとめようとするディレクター。業界の人ですから断られたからと言って引き下がったりはしないようです。ディレクターは幾度もテレビ放映されることのメリットを語り店長に食い下がります。数字をとるというのはこういう交渉合戦のもとに行われているのだなと感心しました。

しかし、いよいよ言葉がでなくなってきたディレクター。ついに声を高ぶらせて言いました。

「これだけお願いしているんですよ。ちょっとくらい撮影させてくれたっていいじゃないですか。おたくにとってもお客さんが増えて商売繁盛することになるんですよ」

うちは儲けることが目的ではありませんからと店長。

「じゃあ、何ですか。何が、何が目的ですか。何のためにこの店は営業しているんですか?」笑顔だけれども皮肉がその表情の裏に見て取れます。

「夢を持ち、真実を追い続けるお客様に、勇気を与え続けていくためです」店長はにこりと笑って自分の発言に満足気です。

ディレクターが口を開けてしばらく店長を見つめます。

はっと息を短く吐くと、カメラマンにダメだと手を振って撤収の合図を送ったのが分かりました。そのすぐ後、他のスタッフに向けて頭の横に人差し指を当ててそれをくるくるとまわしました。それを受けたスッタフは苦笑してディレクターの肩をたたきました。

なんだか、とても嫌な気分がしました。

 

さらに見ていてつらかったのは、カメラマンさんたち機材班の人たちが、終始ディレクターの態度をうかがうようにしていたことです。確か機材班というのは、別の会社から派遣されてきているというのが普通だった気がします。つまりいわゆるアウトソーシングですから、ディレクターとは違う会社で、請負いの立場にあり、ディレクターに意見を言えない立場。従うしかない。

インタビュアーとして来ていた女性アナウンサーも、目の前の出来事に困惑しているように見えました。確か彼女はまだ入社まもない新人さんだったかと思います(私、テレビっ子ですので)。その女性アナウンサーの方が帰り際、店長と私たちにむかって会釈をしてくれたのが唯一の救いでした。

 

ディレクターのブログの最後にはこう記されています。

「分かり合えない人間はいるもの。切り替えて、明日に挑む」

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