天上界では見ててくれる

「ああ、これですか? おかしいですよねm男がつけてるの。ジョークなんですけどね」

ジョーク?

「友達に、「いる?」って言われて。何か分からんけど、もらうって」

なんかわからんけどもらう、ですって? あなた、

その友人に感謝をおし!

それはあなたが持っているべきものではないの!

その時計の主人とされるべきは、あなたではない!

 

私が中学生のころ、毎月読んでいた月刊誌のプレゼント応募欄にハガキを送り続けていたのですが、最後まで獲得できなかった景品がありました。

『女スパイ・クラチャ』という漫画のキャラクター時計です。

当時ひねくれものだった私は当選しなかった理由を、

「そもそもあの腕時計はつりで、実際には存在しない。大人の世界ってひどい」

そう考えることで自分を慰めていました。

当時、熱狂し、くしくも諦めることとなった遠い世界の存在が突如目の前に現れた。体の底から突き上げてくる羨望感。

どうしよう。どうやってこのムラムラと向き合ったらいいの。もう私はいい大人だっていうのに。あんな子供だましに胸圧く震えている。

この世を操っている方に申し上げたい。ちゃんとチェック機能を働かせて!

どうして必要のない人のもとへモノが流れるの?

 

あたし欲しかったのよ。ずっと願ってきたじゃない。どうしてこうもうまくいかせてくれないのです。 ? もしかして、ここまで近づけてやったんだからもう十分だろう?ってそういうこと? だとしたら、あまりにも残酷! 目の前にしてもなお手に入れることがかなわないだなんて!

ひざが笑っている。これが、虚脱感。

「六越さん、大丈夫ですか? 足……」

そう言ってのばされた男性スタッフの腕には、うるわしの『女スパイ・クラチャ』の腕時計。

う、私の中の悪が目覚めてきて、言わせようとしている。だめ、でも……。

「……その、それ。たぶん、それだったと思うんですけど。私の友達が昔から興味を持ってた。『女スパイ・クラチャ』」

嘘をつきました。だけど、これが女スパイのやり方。

「あ、これそんな名前なんですか。知らなかったなー」

そうなの。私はすっごく知っているんだけどもね。

 

ところで、いくら必要だろう。この人それほど必要としていないみたいだし。どうにかして手に入れたい。一万円くらいから徐々に上げていこうかしら。気のゆるみが見てとれた時点でなんとか落札を……。

「あの、これ、いります?」

えっ?

「女の人が着けた方が、いいと思うんですよ」

え、そんなに簡単でいいの?

「どうぞ、どうぞ。友人の方にプレゼントということで」

「あ、……ありがとうございます」

やったー!

いともたやすく。

天上界の方々。お取りはからい感謝いたします。

あれ、でもしまった。友人にプレゼント?

 

このお店に腕時計つけてくることが出来なくなっちゃったじゃない。

スパイ失格。でも、

月日をまたいで願いって、かなうものなのね。

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