えせ合気道家

今も腕がしびれています。今日はもう、片手だけでトレーを運ばなければならないかもしれません。それもこれも、さっきまでいた合気道野郎のせいです。

 

『強くなるための合気』と書かれた本をなめまわすように読む色白の20代男性。たぶんあれは合気道の道着だと思います。白い柔道用の道着を上に着て、下は剣道や弓道で着用するいわゆる黒い袴(はかま)をはいています。

「お待たせしました。『あんみつ姫』でございます」

注文のあんみつをテーブルの上におくと、「ウム」と師範代のようにうなずきます。相当な有段者であるというオーラが出ています。若くて色白なのにこのオーラ。コーヒーではなく、スイーツを注文するところを見ても、何を考えているのかさっぱり読めません。本を読んで研究によどみがないのもさすがといえます。

トレーをさげて持ち場に戻ろうとした時のことでした。

「すみません」

男性は言います。腕を持ってくれませんかと。

戸惑う私に、自身の右腕を差し出しこの手首をつかむようにと言います。

よく分からないまま言われた通り、それじゃあと言って、彼の手首をつかみました。

「痛ててててててて」

いきなり私の腕をひねりあげたのです。

周囲がざわつきます。当たり前です。ボーイがいきなり悪いこともしていないのに腕をひねりあげられているのですから。しかも袴をはいた合気道家に。インパクトははかりしれません。

思わずもう片方の手で、タップします。やめてください。でも合気道家はやめません。

「ギブアップか」と聞いてきます。

なんだギブアップって? そういう問題じゃないだろう。はやく離せ。そして再度タップします。

「ギブアップ? ギブアップか」

しつこく聞いてくる合気道家。なんだこいつは。そう思いましたが、とりあえずやめさせるために、

「ギブアップ」と言いました。

合気道家は「よし」と言ってその手を離します。

腕がしびれてしまっていうことをききません。片腕を抱えてそのまま持ち場にもどりました。

 

しばらくすると、合気道家が注文のため再度私を呼びました。

「お茶をもらえますか」

あんみつは食べ終わっているようでした。

かしこまりましたと言ってお茶を用意しに戻ろうとすると、

「私の襟(えり)をつかんで下さい」と言います。

(やらなければならないのだろうか)。目を点にして私は悩みました。

でも、お客様だし。これで最後だと思い相手の言うとおりにしました。

途端に、私はその場にくみふされてしまいました。

もうやめるかなと思ったら、テーブルの上にのっている合気道の本を見ながらまだ何かやろうとしています。

私がタップすると、こちらを振り向いて、

「ギブアップ? ギブアップか」

と聞いてきたので、「ギブアップだ」と答えると、

「よし」と言ってその手を離しました。

立ち上がった後、納得のいかなかった私は、

「今度は私の腕を持ってみてください」

と言い、やり返してやろうと思って彼の前に腕を差し出しました。すると合気道家は、

「それはできない」と言って、振り直りテーブルの上の本を読み始めました。

私がそばでがんをつけていると、はやくお茶を下さいと言います。

半切れ状態でお茶を持っていったあと、私はずっとそいつの方を見ながらがんをつけ続けました。それに気付いたのか、合気道野郎はもうこちらを見ようとはしませんでした。

 

ほとんど無言で会計のやり取りをしてクソ野郎は出て行きました。

次、来たら、絶対に復讐します。

というか、袴って有段者がはくものでしょ。そんな人間が、本を見ながら技とかかけてこないと思います。しかも初対面の素人に。

あいつ絶対《にわか》です。

だから余計に腹立つわ。

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