登りつめていった青年の影

厨房からちらっと見えたのは、テーブル席でギターをチューニングしている二人の学生さん。男性の方がギターをチューニングし、女性はドラムのスティックを太ももの上でたたいています。もしかすると、男女、楽器が逆の方が普通っぽいかなと思いましたが、そのアンバランスさが面白いのかもしれません。

井上先輩がサービス用のポテトをお皿に盛りながら言います。

「むかしもさ、ギター持って来てたのがいたよね」

ポテトは楽器練習をしている二人に届けるもののようです。

 

もう10年、いやそれ以上経ったかもしれません。楽器を持つ彼らのように、週一くらいのペースで、ライブハウスに行く手前、このハーグストゥーヘンにいりびたっていた青年がいました。カウンターには座らず、いつも四人掛けのテーブル席に座り、歌詞を書いたりしているようでした。それでも店が混んで来たらカウンター席に移り席を空け、周りを気にしながら静かにエレキギターを弾くような青年でした。

「あの二人、今日ライブに行くらしいよ。机にのってるの、あれチケットだって」

サービスのポテトフライを出して戻ってきたホールスタッフからの情報でした。

ライブ、大きなライブ。今日これから……。

 

この店で歌詞を書いていたときに彼はバンドを組んでいると言っていました。そのバンドは着実にファンを増やし、結果、メジャーを制するまでに登りつめていきました。そして今日、三日間あるライブの中日が行われることになっています。私が見たCMの情報が間違っていなければの話ですが。

学生割引をつかってこの店で特別おいしいとはいえないコーヒーを飲み、時間をつぶしていたあのときの彼。よく覚えています。ここでの時間は決して暇つぶしではなかったのではないでしょうか。だからこそ、今の彼のステイタスなのだと思います。

彼のライブパフォーマンスが今日も沢山のオーディエンスに届けられると思うと、妙な感慨が私の中に起こります。

それにしても、テーブル席のギターの彼。これからライブを見に行くというのに、その荷物は重たくないのか。

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