カレー屋のキャッチ

その人は、僕にぴったりはりつき、決してマークをはずそうとはしませんでした。

女性は僕の前に立つと、エスコートしようとしているのか、進路を一方向に限定してつれさろうとしているのか、どちらかなのか分かりません。

 

昨日のことでした。どこかでご飯を食べようと思い、ぶらぶらしていたところ、キャッチにつかまりました。居酒屋やカラオケ、水商売かと思ったら、カレー屋さんだと言います。お店を探していたところだったので、タイミング的にはばっちりでした。

でも正直、お店に着くまでは本当にカレー屋さんなのかと、疑念はふりはらえませんでした。だって、カレー屋さんのキャッチなんて聞いたことがありませんでしたから。そんなわけで、お店に着くまでは5分くらい歩いたと思うのですが、体感時間ではその倍くらいあったかと思います。

 

店に着くとそこにはカレー屋さんの看板がかけてあり、ガラスの窓越しに店内が見渡せました。しかし店には誰もいません。店員さえも。

女性が、閉まっていた入口のドアの鍵を開けると、「どうぞ」と言って中に案内しました。好きな席にかけるよう言われました。

ちなみに、入口のドアのところに、

「ご来店の方は、このボタンを押してください」と印字されたテープがはってありました。たぶんあの女性の携帯電話かなにかにつながるよう出来ているのでしょう。

女性はユニフォームに着替えてきてあらためて、

「いらっしゃいませ」と僕におじぎをしました。ご注文は?と聞かれメニューを見ると、『カレー』と『サラダ』しか書いてありません。

「……カレーで」

かしこまりましたとのお辞儀のあと、

「ご一緒に、サラダはいかがでしょうか?」と言われましたが、カレーだけでと伝えると、女性は再びかしこまりましたとお辞儀をし、鍋に火をかけてカレーを温め始めました。

 

しばらく時間がかかりそうでしたが、有線もかかっていない店内は静かです。そのとき奥から、せき込むような声が聞こえてきました。女性が奥に進むと、「お父さん、無理しないでって言ったのに」とはっきりとした声が聞こえました。

なんとなくですが、店の事情が分かったような気がしました。

徐々にカレーの匂いが店内にたちこめてくると、ようやくカレーが運ばれてきました。

食べると、シンプルでしたが、そこそこおいしいレギュラーサイズのカレーでした。

 

食べ終わってしばらくして、お会計に進もうと思ったのですが、カレーの値段はメニューにはのっていませんでしたので、いくらぐらいかなと思っていたところでした。

すると、女性は申し訳なさそうに、

「……2000円になります」

と言いました。

お互いにつばを飲み込んだかと思います。

料金の受け渡しをして僕は店を後にしました。適正な価格だった、そう今も信じています。

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