スプーン曲げが出来たから

見よう見まねだったと思います。

皆でまかないのカレーを食べようとしていたときでした。井上さんがスプーンを持ってプラプラとゆすり始めました。何をしているのかと思った瞬間、ゴトンという音ともに楕円形のヘッド部分が床に落ちました。

 

落ちたスプーンを見て、井上さんの手に残っている持ち手の方に皆、目を向けます。

「なになになになになに。何したの? スプーン曲げ?」

自身もその出来事が信じられない様子で、床に落ちた部位を拾い上げ、分離された部位同士を近づけてくっつけたり離したりします。そうして、「もしかして……」という感じで、隣の席のスタッフのスプーンを取り上げてもう一度プラプラとゆすり始めました。

皆が息を止めて、場の空気が張りつめます。しかし、スプーンは井上さんの手の中でプラプラ踊っているだけです。

一分くらいやった後、「ダメか……」と息を漏らした井上さんが、スタッフにスプーンを返しました。瞬間、それが二つに切り離されました。

「時間差!」

 

こうなると、全員のスプーンに手を付けないわけにはいかなくなります。

皆、自ら「お願いします」と言って、手に持っていたスプーンを井上さんに渡します。

すると井上さん、右手を動かし何やら念力のようなものをかけ始めました。

(それやらないでさっき出来てたじゃん)と思いましたが、やると、スプーンは折れて二つに分かれました。

誰もが魔物が降りてきたと思いました。

内緒だよと、人差し指を口元にあてた井上さんは口外しないようにと促します。

折れたスプーンを包んで粗大ごみに入れると、厨房から代わりのスプーンを僕が持ってきました。食事を食べる用にです。一人づつに渡すと、手つかずだったカレーを食べようとスプーンを持って皆で合掌。いただきます。

井上さんだけまた、スプーンを折ってしまいました。

厨房に向かおうとする井上さん。いやいやいや、もう食べましょうよ。言うと、

「うるさいよ!」

 

ショックでなかったわけではないのですが、なにより、井上さんのスプーン曲げ依存症を心配してしまいました。

だってあんなふうに井上さんが声を荒げたの、初めてなんですもん。

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