他人のユニフォーム

「木抜さん、なんか服大きくないですか? あれっ」

胸元に刺繍された名前を見て「ああ」と言ってチーフの国府田さんはうなずきました。

店のユニフォームは個々人で洗濯することになっていますが、注文すれば近くのクリーニング店に依頼することができます。それをうちの店でやっているのは僕と井上さんの二人です。ユニフォームが届いていたわけですが、先に井上さんが手に取ってしまったのが運のつきでした。

 

井上さんは僕の分も袋から出し、ハンガーからユニフォームをはずしてくれたのです。余計なお世話という解釈もできますが、善意だと思うので「ありがとうございます」と感謝の意を伝えました。問題は、その後でした。

「なんだろう、なんか、きついな、洗いすぎなんだよあのお店さ、いっつも、いっつも」

何やら井上さんがユニフォームの上着を着づらそうにしています。しきりに、小さく縮んでいるとか洗いすぎだとか言っています。嫌な予感がしていたそのときでした。

「ブチッ」という音がしたと思うやいなや、ユニフォームの両腕が胴体部分からはぎとられるように破けました。

あわてて僕がかけよると、

「これだよ、だからあの店に預けるのいやだって言ったんだよー、もー」

井上さんがそんなことを言ったのを、僕は一度も聞いたことがありません。そんなことより、ちょっと待ってください。ああ、やっぱり……。胸元のタグを確認すると、それは井上さんのものではなく、僕のユニフォームでした。

袋から出してハンガーから取り外してくれたまではよかったのですが、両方のユニフォームを隣りにおいて、取り違えてしまったようです。ズボンまでは間違えずにはけた。逆にそのことが井上さんに気の緩みを誘発させてしまったのかもしれません。わざとでないというのは分かっています。でもだからって、こんな初歩的なコントみたいな間違い……。

「ごめん、木抜くん。ほんとにごめん!」

「いいです、いいです。もう、しかたないです」と言うしかありません。

結局、上着はどうしたのかというと、井上さんの上着を着ることになるわけです。

井上さんは私服の上にエプロンを着て、その後で合間を見て、近くの服屋で替えの上着を探してくることになりました。

 

井上さんのユニフォームをいつまで着ることになるのか現時点では分かりません。ただ、上着を着てみて想像以上に井上さんという個体の大きさを感じます。クリーニングをしてあるとはいえ、知り合いの男性が普段身につけているものを着るというのはやはり抵抗があります。今日はこの違和感と戦いながら仕事をすることになりそうです。

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