秘密警察だったという人

「お姉さん、頭いい人だね」

だいたい見れば分かるとその初老の男性はおっしゃいます。

一時間ほど前から静かにカウンター席でコーヒーを飲み始め、ようやくいま口を開いたところでした。

 

頭がいいと言われ、ちょっと浮ついた気分になってしまいました。でも、私より頭が良い人はごまんといるわけですから。なので、何を見て、どういう意味でそうおっしゃったのでしょう。

その後何も話さず、コーヒーを見つめているだけだったため、こちらから何か話を切り出さなければ間がもたないと思いました。

「どうして、そのように?」

「どうしてだと思う?」

ああ、質問に対して質問。苦手だな。

「心理学の先生か何かされてるんですか?」

笑って、コーヒーに口をつけたあと首を横に振るお客様。一息つき、私の目を見ました。

「秘密警察。やっていたんだよ昔」

秘密警察?

「そう。不穏な動きする人とかをつかまえたり。令状なしで」

いいの、それ?

「この店でも昔ね」

え? うそ、ほんとう?

「向こうのテーブルのところでね、一般人を装った仲間たちが拳銃を構えていたんだよ。結局、何も起こらなかったけどね」

 

真相はやぶのなかですが、お客様は案外きちんとした身なりをしていらっしゃいました。こういう情報だけでその真偽が見抜ける人が、本当の意味で『頭の良い人』なのでしょう。

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