「コロサレタ」

深夜のハーグストゥーヘンにはお客様が二人。

見れば喪章のようなものを腕の高い位置につけています。泣きはらした充血した目。服はシックな色でしたが、どこかの店のユニフォームであることが分かります。夏限定でやっている赤ちょうちんカウンターから少し離れた通常カウンター。二人が席をとったその場所から、「殺されたんだ」という言葉が聞こえてきました。私は思わず彼らの顔をのぞきこみました。

「死んだ」ではなく「殺された」と確かに聞きました。

「コロサレタ」。サスペンスドラマでしか耳にしないようなセリフ。日常で聞く機会のないこの言葉が一般の人の口から出てくるなんて。何か、あったのでしょうか。

 

二人ともまだ20代後半くらいで、お水を運んでいった時にはすでにお酒のにおいがしたので、何件かお店を回った後にはしごをしていらしたのだと分かりました。周りに人がいなかったのと、かなりアルコールが回っていたことで、特段、話していることを聞かれても構わないと思ったのかもしれません。

オーダーでウイスキーが入ったときには大丈夫だろうかと思いましたが、そのあとすぐにまた、間を置かずウイスキーの注文があり、まずい予感がして私はこれ以上飲まないほうがいいのではと伝えました。「あんたには関係ないだろ」一人がの太い声で私の口元あたりに視線をなげて言うと、もう一人がなだめ、「コーヒーとお水もらえます?」と理性をこぼすまいとふんばるように言いました。「なんでだよ」と熱くなった同僚に反発されながらもその背中を軽くさすりながら冷静に振舞おうとしていました。

 

二人とも席についている間はほとんどしゃべりませんでした。もう、言いたいことはさんざん出尽くしてしまっていたのかもしれません。だからこそのお酒の力だったのでしょうか。

しばらくして、比較的冷静だった一人が会計を済ませました。席を立つとき、熱くなっていたもう一人が言った言葉が印象に残っています。

「こんな仕事続くわけない」

 

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