11月2014

留守にしていた経緯

私が今日聞いたことをすべてお話ししたところで、信じてくれる人がどれだけいるでしょう。ただしかし、私には、大真面目にこのことを語る以外他にできることはありません。以下は店長が私に伝えたことを要約するものです。

 

店長と副店長がいやしのハーグストゥーヘンを不在にしていた理由。それは一月ほど前、地下のワインセラーで井上先輩が見つけた一本の筒に始まります。

その筒の中には地図が入っており、そこにはある場所が示されていて、店長はその地図に示された場所へ、副店長を連れて向かうこととなりました。

 

目的地のある街へ着いたとき、二人は、緊張を解くことができませんでした。

通りには人がほとんど見当たらず、建物の窓ガラスは割られ、その中にも人の気配は感じられない。いわゆるゴーストタウンのようだったと。

ただ一軒だけ、三階建てでキレイに体裁を保っていた建物があった。その建物にも人は見当たらなかったが、一階部分に受付があり、呼び出しボタンがあったため、ボタンを押すとある人物が出てきます。それは、店長と副店長の知っている人物でした。

以前、といっても私がハーグストゥーヘンに勤めるもっと前にわずかな期間働いていたという女性で、その人が付き合っていた男性というのが、極めて人間性のまずい人物であったと。二人はなぜそこに彼女がいるのか疑問に思い、そのことを問うと、彼女は口をつぐみます。もう一度聞くと、無言のまま彼女はどこかへ去っていってしまいました。

二人はしばらく待っていたが結局女性は現れず、二人はその店を後にし、ある別の場所へと向かうことにします。

ここで店長が言った言葉に、私は驚くこととなります。二人が向かったのはなんと、

いやしのハーグストゥーヘンでした。

と言っても、

私たちが普段働いているハーグストゥーヘンではないハーグストゥーヘン。

いやしのハーグストゥーヘンは、もう一つ存在したのです。

 

チェーン店だと聞いていなかったし、他のお店と連携をとることもなかったため、私はそれを聞いてさすがに耳を疑ってしまいました。それくらいハーグストゥーヘンは異質であり、真似のきかない店であるためです。

店長たちはもう一つのいやしのハーグストゥーヘンへ向かうと、そこで働くスッタフ達が様変わりしていることに驚いたと言います。

まず、知っている人間が一人しかいなくなっていた。働いているのは、その旧知の人物と臨時で雇うスタッフが一人。お客さん自体が来なくなってしまったため、お店は二人だけで回しているのだといいます。他のスタッフ達はどこへ行ったのかと聞くと、何も答えない。再度聞いてみても、口をつぐんだまま。

 

店長と副店長は顔を合わせて、ある決断を下します。

第一、このようなひどい状態がなぜ起きたのか原因を究明。

第二、以前の状態へと戻すための解決を図る。

二人は留守にしていた期間、ハーグストゥーヘンを復活させる環境が店の周囲に整っているか、その有無を調査していたと言います。

ではその後の二週間に何があったのかと聞くと、それはまだ話せないと店長は言います。私はそれが気になって仕方がないのですが、店長から話せないと断言されると、それ以上はもう聞くことはできません。

 

以上が私が今日までに聞いたすべてです。他言は厳禁でお願いします。

 

面倒くさいはなし

先輩と一対一で話をして、どういう経緯で坊主になったのかが分かりました。

 

まず、失恋の傷を癒やそうと、遠出するため電車に乗って海に行きます。そこで、朝から晩まで荒れ狂う海を見つめていたところ、近隣の方が住職さんを呼んできて説法を聞かせます。その後よく話をきかないまま、うなずいていた先輩は、髪をきられて坊主にされます。旅の疲れでうとうとしていたため、バリカンがはいったのに待ったをかけることができなかったそうです。

翌朝、先輩が起きたところに住職がご飯を用意してくれていたのですが、坊主にされたことについて罵り合いになり、住職と絶交をしてお寺を後にします。

 

海に戻った先輩は、寒空でビュービュー吹く風の下、坊主頭を上着で覆い、近くの商店で購入した画用紙と鉛筆で、拾った板の上にのせて絵を描きます。美術の時間以外に絵を習ったことのなかった先輩が初めて本格的に描いたデッサンでした。

先輩はそれを持って街へと繰り出します。絵を見てもらい、あわよくばそれを買ってもらおうと考えたのです。しかし、お世辞にも先輩の絵は上手いとは言えません。通りかかった人達からは好奇の目を浴びて、時にはあからさまに「俺の方がうめー」とか、「誰に断ってここで商売してる」と近くで寝ていたおじさんに怒鳴られてしまう始末。

 

すっかり自信をなくした先輩は、翌日、電車に乗って街に帰ってきてしまいます。

街をさまよっていたところ、お腹が空いてきたので、道のはずれに腰を下ろして座っていたところ、男性が声をかけていることに気付きます。また何か言われるのかと思いびくついていたところ、その男性は片手に袋を持っており、これをあげると言いました。見ると袋の中にはパンの耳が沢山入っており、その人はパン屋さんの見習いだといいます。「困ったらまたここに来てください」と男性が言うと、お返しに、先輩は鉛筆で描いたデッサンを渡しました。その場所をあとにしようとしたとき、先輩は妙に頭が冷えることに気づきました。そこで、何かかぶるものはありませんかと男性に聞くと、男性は店に戻り、「この前辞めたスタッフさんの帽子だけど」と言って、厨房でかぶる白いハットを先輩にくれました。ありがとうと言って先輩は男性と別れます。

 

夜の街を徘徊していると、パンの耳の入った袋をぶら下げていた先輩の足が止まります。疲れたのではありません。

見つけたのです、彼女を。

正確には、助っ人で来てくれていた副店長の娘さんにそっくりな女性を。

アイドル劇場の入口には出演するアイドルが写った大きなポスターが飾られています。そこできしくも、恋い慕う人にそっくりな女性を見つけたのです。

そのままお金を払い、先輩はそのステージを満喫することになります。そこに偶然にも同じ傷を負った後輩の清水がおり、二人で、ステージに立つ副店長の娘さんそっくりのアイドルに声援を送り続けたということです。

 

以前より仲が良くなった二人は、朝まで先輩の家で語り合い、翌日二人そろって出勤したというわけです。

どこからが本当で、そうでないのか、正直言って、分かりません。

でも、もうこれ以上聞くのが面倒くさいので、そういうことにしておきたいのです。

長文、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

三日坊主

朝早くに出勤して、掃除をしていたときのことでした。

後輩が、井上先輩をつれて店に入ってきました。白い厨房用の帽子をかぶっています。先輩はそのハットをとって深々と私に頭を下げました。

「お店を留守にして、ご迷惑おかけしました。ごめんなさい。」

「いいえ、いいんですよ先輩。それより、どうして坊主頭なんですか?」

先輩は髪を短くかり、ぽっちゃり坊主になっていました。

「いろいろ、ありましてね」

分かりました。先輩。多くは聞きません。

とにかく無事でよかった。しかも、けっこう早めに戻って来てくれて。

三日坊主でよかった。