8月2015

楽しみなスポーツの試合

多くの人が注目しているスポーツの国際試合が三日後と一週間後にあります。その日までわくわくしていることができます。

お皿を磨いていても、お店にいても、道を歩いているときも、そのことで頭をいっぱいにしています。仮にその試合が期待外れだったとして、翌月には別のスポーツの大きな試合が組まれることになるから安心していられます。

 

いつも見てみぬふりをして、そうやって不安の元凶から逃げ続ける。

問題はどんどん大きくなっていくのに、夏はもう終わろうとしています。

相談、できずじまい

「悪いな、来たいって言ってくれてたのに……」

言った私に、急に連絡した自分が悪かったのだからと、気にしないよう彼はなだめてくれました。学生時代の友人である彼に会うのはちょうど五年ぶりです。私は仕事を早めに切り上げて、先に店に到着していた彼に挨拶をかわしたところでした。

最初、友人は話し合いの場にハーグストゥーヘンを指定していたのですが、私が「予約が入っていて難しい」と伝え別に候補としていたこちらに店を代えました。

本当のことを言うと、ハーグストゥーヘンでも特段、問題はありませんでした。私たちの席を確保することは店のスタッフという立場上、むしろ簡単なくらいで、それでも私がハーグストゥーヘンを拒んだのは、話しづらさというか、そこでする話の内容にある種の後ろめたさがあったからです。

 

話は友人が先に切り出します。

「お金が、まずいことになってる」

大企業につとめている彼からその言葉が出たのは意外でした。借金でもしているのか。そう思いわけをたずねたところ、彼には今やっている仕事があり、その資金がそこをつきかけているといいます。彼はすでに勤めていた企業を辞めていたのです。なぜあんな待遇のよい会社を辞めてしまったのかと最初は驚きました。でも彼を見て、そういえばそうだなと納得もしました。

彼は行動力のある人間で、思ったことはいつでもすぐに実行します。今回もそれと同じく、何とかなるだろうと会社を辞めて、その退職金と貯金をくずして事業を始めたのだといいます。高校時代には名門野球部のキャプテンも任されていた統率力のある彼は、大学で私と出会い、一流企業に就職して、順調な日々をたどっていました。会社を辞めてから、上京組で実家暮らしではなかった彼は、親元に居座ることが出来ず自分の力だけで生活していかなければならなかったため、大学時代の仲間であった私に話を持ちかけてきたというわけです。故郷の仲間にも恥ずかしくて今の現状は相談できないと言います。融資は受けられないのかと聞くと、そのプレゼンのための資金がほしいと言います。実現可能性については正直、私の専門外のため分からない部分はありますが、彼は信頼のおける人間であり、出せる範囲であれば援助する予定でいます。

 

彼の話を聞いて、私は自分の身の上話が出来なくなってしまいました。時間が足りなかったわけではありません。あまりにも意味不明な内容だったからです。

私の場合、≪順調にいっている。うまく仕事をこなせすぎている。そのことに違和感を覚え、ハーグストゥーヘンでこのまま働いているべきなのか迷っている≫そんなわけの分からない相談です。お世話になった店を離れて新天地へと羽ばたいていくと言えば聞こえはいいですが、本当は単にこのままでいいのか分からなくなっているから相談したいというだけです。久しぶりに会う友人に相談しようと店まで代えてみたわけですが、友人から切り出されたまっとうな話を前に、私の相談はとん挫せざるを得なくなってしまいました。

 

結局、友人に資金援助することを約束して、後は雑談に終始した私たちは店を出た後、解散しました。

「年齢を考えろ」と自分に言い聞かせましたが、いぜん学生気分の夢見がち少年が顔を出してきて、それを誰かに知って欲しい、自己実現欲求満々な自分の内側を見てしまう恥ずかしい夜となりました。

同い年の芸能人に、いつか

田舎にいた頃、テレビドラマに出ていた俳優さんに、自分にはない大人びたカッコよさを感じました。「こう見えて、実は、若いんだろうな」と思っていましたが、僕と同い年だと知り合いから聞かされたときは大きな衝撃を受けたのを今も覚えています。

自分は、かっこいいだとかそういうタイプからは程遠い存在だったので、よけいにその人のかっこよさが際立って見えたのかもしれません。

 

その人が最近テレビドラマに出ていて、見たら、とてもダンディになっていたのです。就職活動をする一人娘を持つ父親役を演じていたのですが、「そうか、もうそのくらい大きい子供を持つ年齢でおかしくないんだよな」と思わずため息がもれました。

その人は、実生活でもお子さん二人と奥さんを持つお父さんで、そのことはおそらく僕でなくても世間の人は知っていると思います。実際のお子さんは、ドラマの娘役よりもう少し若いということですが。そんな偉大な同い年の俳優さんに、「僕は今から追いつけるだろうか」と、かんがえを巡らせてみます。まあ、でもやっぱり、難しいか……。(あたりまえ)。

 

芸能人は外出するとすぐに人だかりができてしまって大変と聞きます。だったら、ハーグストゥーヘンに来てくれたらいいと思います。完全個室で静かですから。予約待ちがちょっと面倒かもしれませんが。

想像してみました。もしその人がひょんなことからイヤシノハーグストゥーヘンに訪れることがあったら、僕はどうするだろうかと。

握手やサインをもとめるだろうか(もちろんプライベートなので自粛します)。ホールスタッフに代わって料理を運びに行くだろうか。勝手に気の利いたサービスをつけてしまうだろうか。「実は僕、同い年なんです。応援しています」と言うのだろうか。あるいはさらっとお店を後にしたことに気づかず、結局会えずじまいになってしまうのか。いや、そもそもハーグストゥーヘンの存在に気づかないままか……。

 

想像は想像のまま、実現する可能性も高くないでしょう。でも、いつか会ったとしたら、そのとき恥ずかしくないようにしっかり積み上げていこうと思うのです。なぜか、なんとなく、いつか会えるような気がしています。とんだ妄想家です。