師匠と呼んでいた人

この人についていけば人生の答えはおのずと見つかる。そう思わせてくれていた人がいました。私はその人を師匠と呼んでいました。

師匠は人生の酸いも甘いも知っていて、師匠の言うことを聞いていれば、仕事は上手くいく、恋愛も成功する。百発百中の占い師のようで、出会いが人生を変えると言いますが、師匠こそまさに私にとってのその人だったことは間違いありません。

 

ある日師匠が「ここからはお前ひとりで生きていけ」と言い残し、私の前から忽然と姿を消しました。あまりにもとうとつなことに、私はわけが分からなくなりました。その人が私の人生の答えを示してくれると信じており、ある意味、妻よりも重要な人物だと思っていたからです。空白の日々が数年にわたって続きました。日常生活は満たされているはずなのに、充実しているはずなのに、「欠損がある」ということを私の心は訴求し続けていました。

 

珍しく普段飲まなかったお酒を飲み、はしご酒を続けていたときに入ったお店があります。ハーグストゥーヘンです。見たことも聞いたこともなかったその店は突如私の前に現れ、その日以来、私はほぼ毎日この店に通うことになるのです。理由は分かりませんが、何かが「ここだ」と思わせたのでしょう。そうでなければ今、私がこうしてこの場所で店長をしているなどということはありえないのです。

 

もしかすると、私は師匠が帰ってくるのをこの場所で待っているのかもしれません。師匠がこの店を知っているはずもないのにです。いえ、だからこそ、私がここへ来た時と同じように、師匠もいつかこの店にたどり着く。私はそんな妄想を重ねます。

「ああ、なんだここにいたのか。分かりづらいことするもんだなあ、おまえも。」