かみさんへの土産

赤ちょうちんカウンターには焼き鳥を焼く台はありません。そのため、注文が入ると焼き鳥は焼かれた状態で厨房から運ばれてきます。夏限定のカウンターであるため、雰囲気は醸し出せても、カウンターから煙をごうごうあげて、いい匂いを演出するということは出来ないのです。

 

「あれは、上(かみ)さんじゃなくて、神(かみ)さん。神様のことだよ」

先に帰っていった禿頭(とくとう)のつれのお客さんは独り身なのだと口ヒゲの男性は言いました。

「いちど結婚はしていたはずだよ。だけどその嫁さんは姑さんと馬が合わなくって、ほら、あいつは長男だったから、嫁さんよりも家のメンツの方が優先されて別れることになってしまったんだと」

ビールより今日は焼酎がいいやと言って、ちょびちょびと一口サイズのカップにお酒をついでいたひげのお客様は、もう一杯、焼酎を飲むためにカップの残りをくいっと飲み干します。

「昔っからさ、気ーつかいなんだよ、あいつは。今日早めに帰ったのだって、俺の家に息子夫婦が孫連れて泊まりに来るって知っててさ、それで。」

お酒の方にばかり手がすすんでいたためか、たれのついたやきとりはすでに冷めてかたくなっているようでした。レンジがあるのでもう一度温め直すことはできるのですが、それをやったら興ざめになるのでしょう。まるで家にいるみたいで。

 

先に帰った禿頭のお客さんが、「かみさんのお土産にするから」と帰り際にやきとりを何本か買っていかれたのは、何年か前に亡くなったお母様の仏前に供えるためだろうとひげのお客さんは教えてくれました。