次のオシメン

「特別好きというわけではないよ」と前置きをしたうえで「だけど、応援はしてる」。井上先輩は言った後、顔を向こうへやってしまいましたが、気に入っているのだなと思います。

 

井上先輩は卒業してしまったアイドルとの思い出から離れ、ようやく次のオシメン候補を探し出したようなのです。その子はそのアイドルグループに以前から所属する古参の女の子で、目立たないのだけれども頑張り屋で今日まで裏方を支えてきた仲間想いの隠れたエースと呼ばれています。ルックスは中堅会社のオフィスにいそうな感じで、男女どちらからも好かれる様な優しい笑顔が特徴的。井上先輩いわく、最近彼女に《キレ》が戻ってきたといいます。

 

友達だったのに、いつのまにか異性として意識し始めていたということが世の中にはあります。そういう感じでなのではないかと、ちょっと質問してみました。

「どうしてキレがもどってきたんですかね」

「夏バテから復調したとか、まあ、ずいぶん前に失恋したっていうのは聞いていたけど」

「失恋って、恋愛はご法度なんじゃないですか」

「いや、まあ、それは本当にずいぶん昔の話でずっと前に復調していたんだけれども。最近はさらにキレが戻ってきたんだよ。だからもしかすると新しい恋人ができたとかそういう……」

? えっ? ……いや、待て。それはない。いやいや、それはない。だって、だってそうだろう。 付き合ってるとか全然噂たたなかったじゃないか。だから、それはない。絶対にない。断言できる。それはない。だけど、もしかして、万が一、そういうことがあったとしたら、可能性は、0%ではないのか? ……ということは、もしかすると、もしかすると……。

 

心の声が分かりすぎるくらいその表情からは痛切な思いが伝わってきました。先輩はそれからだまりこくってしまったので、話をほじくってしまったことに罪悪感が止まりませんでした。