10月2015

本場仕込みは本当なのか?

実家の母親から手紙が届いていました。封筒を開けてみると手芸の展覧会の告知と一緒に、小学生時代の友人からのハガキが同封されていました。ハガキを見ると、その友人はマッサージ店を開いたようで、おそらく私を含めた小学校時代の友人たちに手当り次第こうして連絡をしているのだと思います。

 

ネットで調べてみると、新装開店した店内の写真がいくつかのっていました。家族と一緒に写る友人も。ずっと南国にいて、そこでマッサージのノウハウを学んできたのだとハガキには書いてありましたが、写真に写る友人はなぜか色白です。南国に住んでいたにもかかわらず。

正直言って、お調子者だった彼とはそれほど仲が良かったわけではありません。開店したお店の場所もかなり遠くにあるため、たぶん行かない可能性が高いです。なにより、本当に彼が本場の地で修行したのか少なからず疑念を抱いてしまうのです。今でも思い出す小学校時代の彼とのやりとりがあります。

「さっきまで俺のポケットに入っていた300円が無くなっている」

みんな何も言わずに黙っていました。そうしたら、

「誰が盗んだとは言わない。とにかくみんなで金を出し合おう。それが300円になればいい」

そう言う彼に不満を見せる私たち。彼は最後にこう言いました。

「世の中には解決できない問題がある」

小学校四年生のときの話です。

若社長だからと許される期間は

どうも頼りなく感じるその男性は、店長と向き合ってもう五分、十分と話をしています。話というより、注意をうけているとうほうが正しいかもしれません。

 

ハーグストゥーヘンで使用している家具は、創業当初から使用しているモノが多く、ときどき修繕が必要になります。アジというのは老舗の大きな魅力の一つであり、「この年季の入った木の感じがいいな」と言って来店されるお客さんは多くいらっしゃいます。当店がその修繕を任せているのが、店長と話をしている男性です。

まだ20代と、若くして社長をしている男性ですが、その理由というのは前社長だったお父様が体を壊してしまい引き継ぐことになったといういきさつがあるそうです。そういうことでまだ未熟な若社長は修繕技術がいまいちで、きちんとした仕事をしてもらいたいと店長に諭されているところなのです。

「わざとじゃないかな」

スタッフの井上さんが言います。

わざとというのは、わざと失敗してそのたびに修繕料金を若社長の方がせびっているということですか?

「違う違う。店長、あえてうちの家具の修理を多くやらせて、若社長に腕を磨いてもらっているんじゃないかな」

「なるほど。でも若社長の方はそれに気づいているんですか?」

気づけていないならもうやっていけないよと井上さんは言います。

 

若社長には口癖があります。

「不徳の為すところで」

これが通用する時期が勝負なのかもしれません。

そういえば、私の方はどうだったろう。人のことばかり関心をしめして。

占い師のネタ元

「じゃあ、木抜君さ、彼女がいらいらしています。どうしてでしょう。ヒント、彼女を怒らせるようなことはしていない」

「ええと、月が満月だった、とか?」

最初は驚きの表情を見せた井上さん。

「じゃあ、これは?」と言ってまた問題を出されましたが、すぐに答えを出すと、苦笑いをうかべて、「正解」と言いました。

その後、井上さんは気の遠くなったような目をしていました。ときどき僕の方を見ているようでしたが、気づかないふりをしました。

僕が「正解」を出し続けたのは当然のことです。答えを知っていたからです。

次にどんな質問がくるのかまでも。

 

(どこかで、聞いたことがある)

テレビを見ていたとき、気になったことがありました。人の心を読むことに長けたメンタリストという人がスタジオの観覧者たちを驚きに包んでいました。皆、口々に「えー」とか「キャー」とか言って口を手でつぐむのです。

メンタリストは、

「今言ったことはこの本の中にすべて書いてあります。詳しくお知りになりたいという方は、書店でお求めを」と言い、司会進行役が「なんだよ、宣伝かよ!」とつっこみをいれて出演者、客席ともスタジオは笑いに包まれました。

このメンタリストが言っていた内容こそ、井上さんのあのクイズでした。合間を見ては僕の肩を叩き、小声で「ここだけの話だよ」とやってくるそれです。

井上さんは、あのメンタリストの本を読み、自分が発見したかのごとく僕に話していたのです。僕は、「わー、すげえ。そんなの初めて聞いた」と目を見開きありがとうございますたびたびと感謝の言葉を口にしていました。誰にも言わないことを条件にです。たぶん僕が他の人に言えば、ネタ元がばれると考えたのでしょう。

と、昨日まではそう思っていたのですが、どうもそれが違うことが分かってきました。

他のスタッフさんから、「井上さんが最近占いの館に通っているらしい」という情報を得たのです。占いだか人生相談だかよくは分からないのですが、とにかく井上さんに《ことづて》をしている人物がいるというのです。

 

ここからは僕の推測ですが、井上さんは、メンタリストの存在を知りません。

占い師がメンタリストの本の内容をまるぱくりしていることに気づいていないのです あるいはもしかすると、その占い師こそが、あのメンタリストなのでしょうか。

いずれにせよ、すべて本に書いてあることなわけですから、千円ちょっとで購入すればいいわけです。占いに毎回通うとなれば大変な金額になってしまうことくらい僕にでも想像ができます。

早く教えてあげないと大変なことになる。でも、このことを井上さんに伝えるってことがそもそも、酷な話。