移動販売の焼き鳥屋で、

その匂いには、どうにも欲求をおさえることができませんでした。

移動販売の焼き鳥屋が自宅に帰る通りで止まっていたのです。

 

「いらっしゃいませ」

何本か注文すればよかったのですが、家にも食材が残っているため、そっちを食べないといけないと思い、一本、たれ味を注文しました。

「珍しいですね」

私が言うと、普段は店舗で焼いているらしいのですが、お子さんが生まれたということで移動販売をして売り上げを上げる必用があるのだと店主は言います。若くお見受けしたので、失礼を承知で年齢を聞くと、私と同い年だということが判明。二人とも驚き(何に驚いたのか分かりませんが)、一緒にがんばりましょうと声を掛け合いました。

「お待ちどうさまです」

受け取って会釈をすると、店主はぜひまたいらしてくださいと言いました。

 

歩きながら食べる焼き鳥は、格別でした。

ハーグストゥーヘンではコーヒーなど別の匂いと交わってしまうため、焼き物はあまり用意していません(近くに焼き鳥屋さんがあるのでそちらに気を遣っているというのもあります)。

家に着くと、昨日の残りのカレーが。

「……」

なんだか、あまり気のりしない。

駆け足でさっきの移動販売車のところへ。しかし、焼き鳥屋はすでにドアを閉めて出発しようとしていました。

「あ、どうも。すみません、ちょうど今閉めてしまったところなんですよ」

いいんです、大丈夫ですと私が言うと、店主は気を利かせてくれ、焼き損じの焼き鳥を少しつくろってパックに詰めてくれました。

「不定期ですけど、たまにここらへんでやっていますので、そのときは覗いてやってください。それでは」

店主は角をまがるとき、クラクションを鳴らして、一瞥をくれたあと、車を走らせていきました。

 

歩きながら、パックにつめられた串のついていないやきとりを素手でつまんで食べました。冷えていて、焼きたてのあの味はもう味わえませんでした。