2月2016

一時代を謳歌した人

久しぶりに会った彼は、ずいぶん前に会った時と変わらない派手な格好をしていました。

「あいかわらずの味ですね」

そう言って、最後まで特性ジュースを飲み干してくれます。

「でも、おいしい。独特で」

 

昔の知り合いで、もう還暦まじかだと言うには派手さは衰えていません。帽子が特徴的なので一発で彼と分かります。

そんな彼から消極的な言葉が。

「若い人の感覚が分からなくって」

コップに残っているわずかなジュースを、ストローで吸い取るようにのど元へ運びます。

「店長は、そういう経験ないんですか?」

ずっとですよ。

すると、吹き出したように豪快に笑う彼の声が響きわたって、他のお客さんの目が私たちに注がれます。

「あのときは、自分の感覚に人がついてくるって感じだったんです」

急に小さな声になり、少し遠くを見つめています。

 

でも、今でも自分の作ったものが好きなんでしょう?

大きく頷いて、「もちろん」と彼は言います。

たどりついたということじゃないですか? 私が言うと、

「そういうことか」

と得意な顔になり、

「もう一杯、このまずいの」

そう言って彼はまた、ジュースをおかわりしてくれました。

他店でコーヒーを買いまして、

この品質のコーヒーだったら、ハーグストゥーヘンで数倍の値段がつくと思います。コンビニの朝コーヒーを買って、イートインコーナーで飲んでいたときに思ったことです。

世界各地で厳選してきた豆を使い、最新の機械でいつも変わらない味を提供する。それも最短時間で。この値段、完璧です。職人技。

 

以前の私はこういう流行りの商品に疎かったのですが、働くようになって、あると便利だなと時々このように買うことがあります。

私の働くハーグストゥーヘンに、これをこえるコーヒーがあるとは思いません。そう考えると、お店の先行きが不安になります。でもなぜかお客様はちゃんと来てくれている。よく分かりません。

目に見えないなにかが、お客様を導いてくれているのでしょうか?

 

お店の前に着きました。

このふるめかしい感じがいいのでしょうか? たしかに、隠れ家的で心くすぐるモノがあります。好きな人にはたまらないと思います。ちりんちりん。扉を開けると、

「おはようございます」

スタッフみんなから挨拶が返ってきます。

ビニール袋の中にはまだ飲みかけのコーヒーが残っています。

もう冷めてしまっています。

同じのを買った人がいる。

誰だろう。店長に見つかったら大変なのに。

「ああ、六越さんおはよう」

おはようございます。

 

店長でした。コーヒーの持ち主。

いいと思うものを選択すればいい。

さあ、仕事だ。

う○こパン屋、ついに査察が

「はい、中継がはいりました。佐藤さんおねがいします」

「はい。こちらPTAからの訴えをうけ、う○こパンの製造で書類送検をうけたパン屋の前に来ています。この商店街で事件が起きたということですが、いまのところ通常通りに営業しているお店が多いようです。通る人も特に変わった様子もなく見えます」

そう言って、レポーターは書類送検になったパン屋について事件の経緯について解説を始めました。スタジオとの往復の会話は深刻さに満ちていました。

 

レポートによると、う○こパンの情報がPTAに流れることとなったのは、内部者からの情報提供が元となっていました。店主は先代から続くそのパン屋を残したいとの意向で、店主の座を奥さんに渡し、心機一転はかりたいと声明を出したということでした。

内部者からの情報提供? ということは、考えられるのは一人しかいません。

うちの店に商品を売りに来る、あの売り子さん。

いや、もう一人いる。

もう一人いる。それは店主の奥さん……。

 

とんでもないアイデアが浮かんでしまいました。

これはあの売り子と奥さん二人が共謀して起こした、

パン屋乗っ取り計画なのでは!

二人は長いことねんごろの関係にあり、前々から疎んじていた店主を追い出すことに成功した。

なんて卑怯な!

 

そういうふうに妄想をして、休み時間を終えました。