井上

どうしてもあれが食べたいから

「冷やし中華って、今、つくれますかね?」

ホールスタッフが厨房に来て言いました。

どういうことかと聞くと、お客さんでどうしても食べたいと言って聞かない人がいるのだと。大柄の男の人で、異国情緒があるとホールスタッフは説明しました。

その人が片言で、

「ヒヤシチュウカ、ありますか?」

ホールスタッフにそう何度断っても尋ねてくるのだと言います。まだ季節的に作っていないのと、材料がそろっていないと伝える様、ホールスタッフに言いました。

お客さんは説得のあと、ようやく、しょうがないからという感じで、しぶしぶ注文をラーメンに変更してくれました。一緒にヨーグルトの注文も。

 

ラーメンを仕上げてヨーグルトと一緒にホールスタッフに持っていかせた後、他の注文の調理にとりかかっているときでした。

スタッフの一人が驚いた様子で状況を伝えにきました。

さっきのお客さんが、デザートにと思ってお出ししたヨーグルトを、ラーメンの上に具材としてかけて食べているというのです。

お客さんがいちいち食べているところをのぞいたりするのは店としてあってはならない行為です。なので、後でホールスタッフに聞いたところ、お客さんは、失敗したという表情をしながら召し上がっていたといいます。

 

冷やし中華の具材にヨーグルトというのはあってもおかしくないと思います。でも、ラーメンにヨーグルトというのはやっぱり相性がよくないかもしれません。

20数年ぶりの再会

「井上君」

お昼休みに店を抜け出しコンビニに向かっていた時のことでした。二十年ぶりの友人に会いました。

上京して専門学校に入ったとき、大半の生徒は本気で料理人になるという感じではなく、ただ資格を取りに時間つぶしで来ているという感じで、授業中もすごくうるさかったです。あまり人としゃべらなかった僕でしたが、同じように静かだった彼とは何度か学校内や公園にいったりして話をしました。

彼は上京組ではなかったのですが、電車で時間をかけて学校に通ってきていました。実家が定食屋をやっていたため、家を継ぐために通っているのだと言っていました。

 

「ひさしぶり」と言われ、ひさしぶりと僕も返します。

こんなところで何をしているのかと聞くと、

「ちょっとね」と彼は言います。家の人は元気なのかと聞くと、

「元気だよ、おかげさまで。そっちは」

僕も元気だと伝えました。そう、と彼は言い、

「お店、この近くなの?」と聞かれた僕はうなずき、ハーグストゥーヘンに来ないかと彼を誘いました。急いでいるからと言って彼はそれを断りました。

「また。」とこちらに手をかかげたので、僕も「また」と言って別れました。

 

20年数年ぶりの再会でした。

《あの頃》という甘い蜜

今日、新人スタッフの木抜さんと休み時間にファミコンの話で盛り上がった。

世代が近かったため、ゲームソフトの何が面白かったとか、それはやったことがないだとか、キャッキャキャッキャとはしゃいだ。同世代はこういったことで打ち解けられる強みがある。とくに僕らの子供のころは子供のための遊びがたくさんあったものだから、思う存分遊びに専念することが出来ていたように思う。偽物もたくさん出回っていたが、それはそれで楽しめたような気がしている。現在に目を向けなければならないとは知りつつ、《あの頃》という甘い蜜のはいったツボをほじくるよくない癖が僕にはある。