国府田

女性物ブランド財布のおっさん

「いや、ですから、私たちは同い年だと……」

時々、日曜日の夜遅くに焼き鳥を売りに来る移動販売のお店があります。そこの店主と私は同い年です。

 

焼き鳥を待つ私の隣にはもう一人お客さんがいました。これで三度目くらいです。その男性からはアルコールの匂いが漂っており、いま気が付いたといわんばかりに、こう言います。

「若いな、いくつだ?」

私はまた年齢を答えた後、車のなかで焼き鳥を焼いている店主と顔を見合わせて苦笑しました。

男性は60代くらいで、ハーフパンツをはき、サンダル姿。手には長財布を持っており、ちょっと近所の家からかけてきたという感じ。手に持つ財布は高級ブランドでおそらく女性物です。

寄り合いの席で話をしているような感じで男性が言います。

「俺も昔は苦労したよ。何にも悪いことしてねえのに、殴られたりしてな」

またこの世代特有の昔話が始まったかと思ったのですが、

「まあでも、おめえさん達もいろいろと大変なんだってな。聞いているよ」

 

言われて、何かしんみりするものがありました。

どのくらいの思いで男性がそう言ったのかは分かりませんが、形だけでも気を遣ってもらえると、人間ありがたく感じるものなのでしょうか。

少し経った頃、サンダルにパジャマ姿の女性が近寄ってきました。

「何してんのこんなところで! 真っ直ぐコンビニ行ってきてって言ったでしょ!」

男性は、奥さんであるこの女性にお遣いを頼まれたのだと私と店主は察しました。

店主はいそいで焼き上がったばかりの焼き鳥を男性に渡しました。先に私が注文していたのですが、機転を利かせた店主の良い判断だったと思います。

去り際、男性は、険悪な表情を浮かべる奥さんを尻目にこちらへ向かってこう言いました。

「がんばれよ」

納豆でケンカ

納豆が苦手な人にとって、その匂いがそばにあったなら、なかなか苦しいというのは想像に難くありません。ましてや自分自身が別の食事をしている最中であったら、なおさら。

 

「くっせーなぁ」

その一言が、親子ほども年の離れた隣のお客様の怒りを誘ってしまったのです。

「なんだと。なんだ、このやろう! 納豆はそういう食べ物なんだよ!」

言ってしまった若い男性の方が、「ちっ」と舌打ちをしました。それはその相手にというよりも、自分自身への軽率さの反省だったのかもしれません。

しかし言われた方の男性としては見過ごすわけにはいかなかったようです。

「「ちっ」だ? なんだその態度は! わけーもんはこれだからダメなんだ。昔はこの納豆一つを家族みんなでわけあってたんだ。お前らみたいに飽食の時代に生きてねーんだ! 分かるかお前にそれが!」

怒りのせいで、主張がやや脱線してしまったような気がしました。するとやはり、

「知らないですよそんなの! 黙って聞いてれば調子にのりやがって」

止めに入ろうと思いました。が、

「それだから、若いギャルたちに加齢臭、加齢臭って言われるんだろ」

若い男性のその続けざまの一言で、言われた年上の男性は、まるで雷に打たれたかのように静かになり、それきり口を閉ざしてしまいました。視線はうつろに遠くを見つめて。

 

若い男性も年の離れた方の男性も、ともに支離滅裂だったような気がします。怒りはときに、思ってもいない言葉を発言させてしまう。そんな暴走エンジンになる怖さがあります。

厨房スタッフの井上さんにこのことを伝えると、

「じゃあ、今度から、納豆は牛乳につけて臭みをとることにしよう」

極端な考えだと思います。ただ、いじるべきところは本当はどこなのか、私たちみんなが考えてみる必用がある気がします。

リフォーム

最近、有名なホテルが新しく建て替えられて、一般公開となりました。

友人の結婚式や食事で何度か行ったことがありますが、しばらくの間、足が遠のいていました。

今の自分はもうあそこに足を運ぶことはないだろうなと思います。華やかな雰囲気が苦手だというわけではありません。ただ、単純に縁がないだろうなという感じがしています。次にもし行くことがあるとしたら、どういうときか。

 

「どうしたの、考え事?」

店長が笑って私の肩を叩きました。

今日の夕飯を何にしようか考えていましたと私は言いました。

厨房で働くスタッフたちを店長が指さし、

「最近みんなよくなってきてるよ。あなたのマネージングのおかげ」

先に上がるよと店長は言いました。